"15の夜"は何してた?
盗んだバイクで走ってた? それとも夜の校舎の窓ガラスを壊してまわってた?
色んな青春があるよね。生き方も多種多様だよね。
ちなみに俺は、空に居た。
飛行機に乗ってた。
何でかって?
卒業したからだよ。
支配からじゃないよ。中学校と一緒に学歴社会からドロップアウトしたんだよ。
そしたらね、親父がね、赴任先のバンコクに来いって言うんだ。
居住だね。一人少年小移動だね。
正直最初嫌だったけどね。思春期の男が親父と同居するのきついじゃん。
まあ連行されたからね。仕方ないよね。
でもね、飛行機は一人で乗ったんだ。
親父が急な仕事入ったからつってね、チケットだけ渡されてね。
うん、夜の便だったね。
ちょっと逃げようかなと思ったけど、行ったよ。
どうせロクな居場所もねえし、出国手続きして、乗ったよ。
座席に腰を下ろした後も、落ち着かなかったよ。
これから先の人生がどうなるかわからねえ、わからねえ、って悶々してたよ。
後……これこそ何故かわからんがJohn Lee HookerのBoom Boomを機内で何度も聴いてたよ。
この曲、かなり語弊のある説明をすると“男が自宅に女を連れ込んで、ブーンブーンとかハウハウ言いながらセックスしているだけ”の歌詞だよ。
直接的な表現はないけどね。歌詞を見るにそうとしか考えられないよ。
俺は俺で、似たようなことしてたけどね。持ってきていた本も読んじまって、やることがないから飛行機のトイレに入って自分を慰めていたよ。
いいよね。自分を慰めるって言葉。
だけどやっぱり虚しいよね。本当は女に慰めて欲しいってのが自慰の根底にあるものだからね。
俺がこれから住むバンコクのマンションに行ったら、女じゃなくて親父が居るからね。
哀しいなぁ……哀しいなぁ……
ケンドーコバヤシ氏の言葉を思い出すよ。
――オナニーの話は哀愁があっていい。まるでブルースのようだ――
ああ、だからブルースを聴いていたのか。
成程ね。いや全然納得してないけど。
ともかくヌいたらスッキリはしたんで、寝たよ。
スッキリした……ではないな。心底疲れて、寝たよ。
数時間ぐらいして、起きたよ。
そしたらさ。
俺の席に、朝陽が兆していたんだ。
そんとき、俺思ったのよ。
バンコクに行くこと自体は嫌じゃなかったのよ。
当時の俺は三島由紀夫にゴリゴリにハマっていたのよ。
んで、暁の寺って小説があんのよ。
それはバンコクの話なんだよね。
初めて期待ってのが湧いてきたのよ。今までに行ったことがない新しい世界に行けるって。
自分が羨望していた居場所は、何処かにあるはずだろう、と。
今は何をしていいか、どうしていいかもわからないが、行きつく果てはあるだろう、と。
そう思えるだけでも、当時の俺には救いになった。
シートベルト装着を促すサインが点灯して、機体がやや降下し始める。
いよいよバンコクに着く。
どんな人生に進むことになろうと、とりあえず前には進んでやろうと、
深くそう思いながら、飛行機は“暁”を目指していった。
ただ……人生というのは色んな曲道があるわけよ。
この時、自分が聴いていた音楽はBoom Boomではないんだよね。
Pink FloydのHigh Hopesを聴きながら、朝焼けを見渡していた。
Pink Floyd - High Hopes (Official Music Video HD)
“高望み”が行きつく果ては、果たして天国か地獄か?
それこそ誰にもわからないが、15の夜は15の朝へと姿を変え、
※追記
昭和軽薄体崩れみたいな文体にした理由は、全く無いです。
このブログは私の遊びなんで、気分によって変えます。