崇めよ我は全知無能なり

※現無職なので遠くない未来に失踪します

15の夜は空に居た~暁への片道切符、バンコクへ道連れ~

"15の夜"は何してた?

盗んだバイクで走ってた? それとも夜の校舎の窓ガラスを壊してまわってた?

色んな青春があるよね。生き方も多種多様だよね。

 

ちなみに俺は、空に居た。

飛行機に乗ってた。

 

何でかって?

卒業したからだよ。

支配からじゃないよ。中学校と一緒に学歴社会からドロップアウトしたんだよ。

そしたらね、親父がね、赴任先のバンコクに来いって言うんだ。

居住だね。一人少年小移動だね。

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”一人民族大移動”をするには、15の俺には荷が重過ぎた。

正直最初嫌だったけどね。思春期の男が親父と同居するのきついじゃん。

まあ連行されたからね。仕方ないよね。

でもね、飛行機は一人で乗ったんだ。

親父が急な仕事入ったからつってね、チケットだけ渡されてね。

うん、夜の便だったね。

ちょっと逃げようかなと思ったけど、行ったよ。

どうせロクな居場所もねえし、出国手続きして、乗ったよ。

座席に腰を下ろした後も、落ち着かなかったよ。

これから先の人生がどうなるかわからねえ、わからねえ、って悶々してたよ。

後……これこそ何故かわからんがJohn Lee HookerのBoom Boomを機内で何度も聴いてたよ。


John Lee Hooker - "Boom Boom"

この曲、かなり語弊のある説明をすると“男が自宅に女を連れ込んで、ブーンブーンとかハウハウ言いながらセックスしているだけ”の歌詞だよ。

直接的な表現はないけどね。歌詞を見るにそうとしか考えられないよ。

俺は俺で、似たようなことしてたけどね。持ってきていた本も読んじまって、やることがないから飛行機のトイレに入って分をめていたよ。

いいよね。自分を慰めるって言葉。

だけどやっぱり虚しいよね。本当は女に慰めて欲しいってのが自慰の根底にあるものだからね。

俺がこれから住むバンコクのマンションに行ったら、女じゃなくて親父が居るからね。

 

哀しいなぁ……哀しいなぁ……

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本当の表記は”哀”じゃなくて”悲”だよ。パワポケ9の広川武美も似たような台詞を口にするけど、意味が全然違うよ。

ケンドーコバヤシ氏の言葉を思い出すよ。

――オナニーの話は哀愁があっていい。まるでブルースのようだ――

ああ、だからブルースを聴いていたのか。

成程ね。いや全然納得してないけど。

ともかくヌいたらスッキリはしたんで、寝たよ。

スッキリした……ではないな。心底疲れて、寝たよ。

数時間ぐらいして、起きたよ。

そしたらさ。

俺の席に、朝陽が兆していたんだ。

そんとき、俺思ったのよ。

バンコクに行くこと自体は嫌じゃなかったのよ。

当時の俺は三島由紀夫にゴリゴリにハマっていたのよ。

んで、暁の寺って小説があんのよ。

それはバンコクの話なんだよね。

豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫)

初めて期待ってのが湧いてきたのよ。今までに行ったことがない新しい世界に行けるって。

自分が羨望していた居場所は、何処かにあるはずだろう、と。

今は何をしていいか、どうしていいかもわからないが、行きつく果てはあるだろう、と。

そう思えるだけでも、当時の俺には救いになった。

シートベルト装着を促すサインが点灯して、機体がやや降下し始める。

いよいよバンコクに着く。

どんな人生に進むことになろうと、とりあえず前には進んでやろうと、

深くそう思いながら、飛行機は“暁”を目指していった。

 

ただ……人生というのは色んな曲道があるわけよ。

この時、自分が聴いていた音楽はBoom Boomではないんだよね。

Pink FloydのHigh Hopesを聴きながら、朝焼けを見渡していた。


Pink Floyd - High Hopes (Official Music Video HD)

“高望み”が行きつく果ては、果たして天国か地獄か?

それこそ誰にもわからないが、15の夜は15の朝へと姿を変え、

バンコクスワンナプーム空港へと着陸していった。

 

※追記

昭和軽薄体崩れみたいな文体にした理由は、全く無いです。

このブログは私の遊びなんで、気分によって変えます。